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Aloha Features

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密接に地元コミュニティーと繋がり、貢献することが私たちの使命
観客の声に耳を傾け、よりよいシアター作りを心がけています

 

 

ホノルルを代表するミニシアターとしてコミュニティーに貢献。若きディレクターの才能と努力が今、実を結ぼうとしている

 

ホノルル美術館の中に、小さなシアターがあるのをご存知だろうか。入り口は美術館の正面玄関とは反対側のキナウ通りに面しているので、知らなければ素通りしてしまうだろう。美術館見学に行っても、ミュージアム・カフェの近くの建物の中にほとんどミラクルと言っていい劇場が存在するのに気付くことはまれだ。イスラム建築を模した邸宅で有名なドリス・デュークにちなんで名付けられた「ドリス・デューク・シアター」と呼ばれるこの劇場は、座席数280のこぢんまりしたシアターながら、映画上映、イベント、コンサートなどが行われ、足しげく通う地元ファンも多い。最新テクノロジーでハリウッド大作ばかりを上映するシネコンとは違い、単館系の映画や、ハワイではほぼ上映される機会のない外国映画、良質のドキュメンタリーなど、バラエティに富んだ作品のラインナップが自慢だ。ステージもあるので、ハワイアンミュージックやワールドミュージックのライブパフォーマンスなども定期的に行われている。そのプログラム選びから劇場の運営管理まで、一手に引き受けているのがディレクターであるテイラー・チャンさんだ。2012年にシアター・マネージャーを公募した際、海外からも輝かしい経歴を持つ人たちから多数の応募があったが、選ばれたのは、ホノルル出身で大学を出たばかりの彼女だった。今回は、現在シアター・ディレクターとして地域密着型の劇場で働くテイラー・チャンさんにお話を聞いた。

 

時にはプロデューサーや監督を呼び、Q&Aの時間を設けるなど、好奇心を満たす企画も随時行う。ドキュメンタリー「OTTOMATICAKE」上映時には、ミニチーズケーキも配った。

 

 

これ以上のラッキーはないと思うほど、自分にぴったりの仕事と出会って大きく成長できたことに心から感謝

 

シアター・マネージャーとしてホノルル美術館ドリス・デューク・シアターに就職したのは、大学を卒業して、ホノルルに戻って1年たった時。「応募者の中で、最年少だったというのはまったく知りませんでした。確かに卒業したばかりで若かったと思いますが、大学では映画科で映画製作とシアター経営の両方を学んだので、そこで得た知識がこの仕事を得る上で評価されたのかもしれませんね」と話すテイラーさんは、名門プナホウスクールから、コネチカット州のイェール大学へ進学した才女。大学ではフィルム・ソサエティにも参加し、3年間代表を務めた経験もある。やがてマネージャーからディレクターへと昇格。今では上映作品の選定、イベントやスポンサーとのコラボレーション企画、スタッフケアなど、劇場におけるあらゆる面での責任を負う立場にある。「ハワイに戻り、地元で就職したいという思いはあったのですが、ホノルルには、自ら上映プログラムを決めることができる劇場はほとんどないので、今の環境はものすごく恵まれていると思います。本当にラッキーでした。今でも夢のようです」。ドリス・デューク・シアターという、ちょっと特別な劇場についてもう少し詳しく知りたい方のために説明をお願いします。「はい、ドリス・デューク・シアアーは、ホノルル美術館の一部で、非営利団体です。映画、音楽、パフォーマンスを通して、様々な形でコミュニティーに奉仕する、という明確なミッションのもとに運営されています。毎日さまざまなタイプの映画の上映があり、多くの地元の映画ファンに足を運んでいただいています。劇場の特長をひと言で言えば、多様性でしょうか。ここで観ることができるのは、ハリウッドの最新超大作ではなく、他ではほとんど観ることのできない作品ばかりです。とはいっても、堅苦しい作品ばかりではないのでご安心を。音楽やステージなどのパフォーマンスも毎月行われていますし、地元コミュニティーに密着した、誰にでも開かれた劇場と言っていいと思います」。

 

 

 

確かに上映ラインナップを見ると、多様性を大事にしていることがうかがえる。1つの作品の上映日数は少なくても、思いがけない名作に出会えるチャンスの宝庫となっているのがよくわかる。「独立系やアート系の作品を作っても、上映する場所がなければ意味がありません。私たちはそういったフィルムメーカーたちもサポートしたいのです」と話すテイラーさんは、自らも脚本を書き、ショートフィルムを制作する映画人でもある。そのため、常にチャンスを探しているフィルムメーカーたちの気持ちがよく理解できるのだと言う。また、「美術館の一部なので、他のエキシビションと関連付けたり、他のビジュアルアートとのコラボなど、プログラムを考える余地が無数にあるのが、ドリス・デューク・シアターの魅力ですね」とテイラーさん。外国映画の特集、アニメやサーフィンなど、テーマに沿ったフェスティバル上映、クラシックの名作を大きなスクリーンで見せるなど、プログラムを見ているだけでもわくわくするし、毎日でも足を運びたいという映画ファンがいても当然だろう。今後も、シアターはどんどん進化していくのだろうか・・・。「これからやりたいこと、というのも実はまだたくさんあるのですが、自分の希望より、今はこの劇場にとって何が大切かを考えることを優先しています。観客の声を聞き、地元のコミュニティーに必要なことは何か、世界とハワイで何が起こっているかを知り、映画やパフォーマンスを通してそれを結びつけることが、私の使命だと思っています」。彼女の口から何度となく出てきたコミュニティーへの貢献。劇場が地元社会にできること。はるか遠い国の映画を上映し、その国の文化を垣間見る機会を作ることのほかに、こんなエピソードがある。テイラーさんは以前、刑務所にいる女性受刑者たちを劇場に招待し、映画を楽しんでもらうというプランを実施した。女性たちは、その日久々にメイクアップをし、ドレスに身を包んで映画をエンジョイしたという。周囲には心配の声もあったが、もちろん問題など起きるはずもなく、プランは大成功だったという。社会復帰を前に、そういった経験は女性たちにとっても大きなプラスとなり、喜ばれたに違いない。そんな視点を持てるテイラーさんだからこそ、今後もシアターをより特別な存在へと導くことができるに違いない。1年にプログラムする映画の数は200本を超え、20以上のコンサートもオーガナイズするテイラーさん。個人的に好きな映画監督は?の問いに、「黒澤、タルコフスキー、フリッツ・ラング」と即答。最近では、リン・ラムジー、ポール・トーマス・アンダーソンがお気に入りだそう。今は自分の作品に取り掛かる時間がないと言うが、いつかドリス・ディーク・シアターで彼女の作品を見てみたい。

 

 

Profile

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テイラー・チャン  Taylour Chan

ホノルル出身。中国系ハワイアンの父と日本人の母を持ち、空手の師範である母に幼い頃から空手を習う。プナホウスクールからイェール大学へ進み、映画制作やシアター経営などを学び、学位を取得。卒業後、ハワイへ戻り、2012年ホノルル美術館ドリス・デューク・シアターに就職。現在はディレクターとしてプログラムやイベントの企画から実施まで、すべてをこなす一方で、自ら脚本を書き、ショートフィルムを制作するなど、映画作りにも取り組んでいる。

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